お品書き
そばを食べる地方は様々あり、そばの打ち方からそばつゆ(そば汁)も多種多様です。
そこで今回は特にそばつゆに力を入れている江戸風のレシピを紹介します。
今ではさば節、あじ節、昆布出汁などを入れるところも多くありますが、今回はコテコテの江戸っ子向けである醤油と砂糖、本味醂、そして鰹節だけで作っていきます。
江戸のそばつゆの特徴
江戸風のそばつゆは出汁を濃く取ることで塩なれという性質を利用して、醤油の塩気を抑えて旨味を引き出すのが特徴です。
一般的に現在使われている出汁は吸い物だしという、飲むために香りと味がサッパリとした出汁が使われています。
しかし、そばつゆに使われるのは煮物だしという名前どおり、煮物に使われる風味が強く、濃厚な味をもっています。
一般家庭ではあまり使わないと思いますが、ラーメンやつけ麺に使われるのは味わい深い煮物だしです。
そばつゆの味のベース
そばつゆは単純に砂糖と醤油を溶かしたものではなく、「かえし」というラーメンでいうタレに当たるものを使います。
かえしには基本的には3種類あり、「本かえし」「生かえし」「半生かえし」があります。
かえしを作る理由としては醤油が空気に触れると酸化し、劣化するからです。
そこでジャムと同じように砂糖を添加し、加熱することで保存性を高めています。
同じ素材と分量で作っても味が変わるので、蕎麦屋では適したかえしの作り方を選んでいます。
本かえし
弱火で加熱した醤油に砂糖を入れ、ゆっくりとかき混ぜながら溶かします。
醤油は製造過程で1回加熱されますが、かえしは出来上がった醤油を再度煮返すことから出来た言葉です。
醤油を加熱することにより、強い香りとトゲトゲしい醤油の塩気がまろやかになります。
合う蕎麦は香りがおだやかである更科系(そばの実の中心だけを使ったそば粉を使用したもの)のそばですね。
生かえし
砂糖を水で溶いて、シロップにしてから生醤油に入れます。
醤油に火を入れないので生かえしと言います。
特徴としては醤油の塩気を強く感じ、火を入れていない分醤油の香りを強く感じる雰囲気があります。
合う蕎麦は野趣あふれる蕎麦の香りがある藪系(そばの実の殻だけを取り、そばの実全体を挽いたもの)のそばです。
半生かえし
半生かえしは生かえしの時には水を使いましたが、少量の醤油で煮溶かします。
砂糖を溶かす分の醤油だけに火を入れるので、半生かえしと言います。
特徴としては本かえしと生かえしの中間にあたる味です。
合う蕎麦は一概に言えませんが、様々なそばに合いやすいですね。
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乾そばは上の記事を参考にしてください。
レシピ
今回は「煮物だし」「半生かえし」「本かえし」「そばつゆ」の作り方を紹介します。
江戸風の煮物だしは本来は荒節ではなく、本枯れ節を使いますが、入手しやすく、価格の安い荒節で今回はあえて作っています。
ですが、やはり本枯節で作ると非常に美味なので、削り節器か業務用サイズを購入する人には本枯節をオススメします。
妥協しない場合は鰹・鯖・宗田鰹の本枯節を用意し、鰹節:鯖節:宗田節を2:1:1でブレンドするとそば以外にもうどんや料理で使いやすく、味のバランスが良い麺つゆを作ることが出来ます。
鯖節を多めにすればカレー南蛮や肉汁そばなどの力強い素材との相性が高まり、宗田節を増やせば鰊そばや山菜そばなどのスッキリとした素材と相性がいいですね。
鰹の本枯節だけで作る場合は卵とじや花巻、具材無しのかけそば・もりそばが美味であり、シンプルに汁と蕎麦を味わうのに向いています。
本題に入りますが、当サイトの管理人の好みでは藪系は半生かえし、本かえしは更科系と使い分けていますが、一般家庭では比較的マイルドな味である「本かえし」がオススメです。
おおまかな流れとして以下の4工程になります。
1.出汁を取る。
2.かえしを作る。
3.出汁とかえしを合わせてそばつゆを作る。
4.冷やして寝かす。
使った材料のメーカーも記載しておきますが、本味醂を使う以外は家庭で扱っているものを使って大丈夫です。
出汁を取る
材料
かつお厚削り 80g 氷温熟成かつお厚削り ヤマキ株式会社
水 3,000ml
作り方
1.ボコボコと音がするぐらいに沸騰させたお湯にまとめて厚削りを入れる。
2.5分間沸騰させ、アクは細かく取る。
この時、箸でかき混ぜながらまとまった状態にならないようにすると、お湯に触れる表面積が増えるのでしっかりと出汁が取れます。
3.5分経ったら弱火~中火にして60分以上かけながら煮詰める。
コンロや鍋によって火力が違うのであくまで時間は目安です。
4.出汁がおおよそ1,000ccまで煮詰まったら火をとめる。
逐一計量しなくとも、最初の水分量の高さを覚えておき、1/3ぐらいの高さになったと感じたら火をとめれば大丈夫です。
5.ザルにリードペーパーやこし布を用いてキレイに汁だけを取る。
6.家庭ではこれらの出汁を使い切れないので、半分はジップロックなどで冷凍する。
かなりの濃度も持っている鰹出汁なので普通の料理に使う際はしっかりと薄めて、昆布を追加すると大量の合わせ出汁を作り出せます。
二番出汁について
再度、出し殻であるかつお節を煮出したものを2番出汁といい、穏やかな味わいと香りをもった出汁を取ることができます。
かけそばを作る際にこちらの汁で割ってあげると美味しくなる…
と、よく言われますがここまで取ると二番出汁は取れず、スカスカな味わいになります。
普通の吸い物だしで使われる花かつおを使う時限定のテクニックだと個人的には考えています。
実験
一応、2時間程度弱火でじっくりと煮出しましたが味噌汁ですら厳しいレベルの旨味の無さでした。
仕上がったプロの麺つゆはお湯だけで割っても美味しくなりますが、その領域までには数年掛かります。
かえしを作る
生がえし
材料
濃口醤油 180cc 有機丸大の吟撰しょうゆ ヤマサ醤油株式会社
上白糖 30g カップ印 日進製糖
本味醂 10g 九重味淋株式会社 九重櫻
作り方
1.醤油を60cc(おおよそで大丈夫です)入れ、本味醂と砂糖を弱火で加熱する。
2.鍋の周りに泡が出来、真ん中に穴が出来るぐらいの火加減にする。
ここで火を入れすぎて焦がすと美味しいそばつゆにならず、焦げ臭くなります。目安としては鍋の周りに細かい泡ができ、中央の部分だけ泡がない状態がベストの火加減です。
3.②の状態に出来たらすぐに火を落とし、粗熱が取れたら残りの醤油をすべて入れる。
後々、出汁と合わせるので鍋に入れっぱなしで大丈夫です。
本かえし
材料
濃口醤油 180cc 有機丸大の吟撰しょうゆ ヤマサ醤油株式会社
赤砂糖 35g カップ印 日進製糖
本味醂 15g 九重味淋株式会社 九重櫻
1.材料を全て入れて、弱火で加熱する。
2.鍋の周りに泡が出来、真ん中に穴が出来るぐらいの火加減にする。
目安としては鍋の周りに細かい泡ができ、中央の部分だけ泡がない状態がベストの火加減です。本かえしの温度では80~90度ぐらいになります。
3.②の状態になったら2分ほど弱火で加熱して、火を落とす。
後々、出汁と合わせるので鍋に入れっぱなしで大丈夫です。
豆知識
本味醂を入れるのには理由があり、1つ目は甘味と旨味を調整するためです。
もう1つはデキストリンという粘り気のある糖分が含まれており、糊のような働きがあります。
焼き鳥のタレに味醂が入っているのはここにあります。
出汁とかえしを合わせる
そばつゆはかえしと出汁を1:2から1:3程度の比率にして割ります。
ここは完璧好みの問題なのですが、塩分はマイルド化の傾向にあるので最初は1:3の比率がオススメです。
今回は1:3に近いレシピで作業を行いますが、その内、出汁とかえしのバランスを微調整出来るので数値は飾りとなりますね。
作り方
1.先程作ったかえしに取った出汁の半分(500cc)を入れる。
2.写真のように沸かしたらすぐに火を落とす。
3.流水や氷を利用して、一気に冷やす。
ここで注意なのはかえしの量は蒸発することで思ったよりも減っていますので、出来上がり量は計算したものより少なくなります。
4.密閉できる容器に入れて、一晩寝かしたら完成!
味が濃い?
この状態でまず味見して思うことはかなり味が濃いと感じるでしょう。
市販の濃縮だしには醤油が塩なれ(塩分を薄く感じる効果)するほど濃い鰹出汁を入れられません。
これは鰹出汁のタンパク質なので長期保存が効かず、材料費が高くつくからですね。
なので、必然的に醤油は少なくなり、保存性を高めるために糖類が多く入ります。
それでもプロがブレンドしているのでそれなりに美味しく出来ていますが、今回作った江戸のそばつゆとは別物です。
そういう理由から今まで親しんでいた麺つゆの感覚で食べると『なんだこのしょっぱいのは!』となります。
なので、ここは伝統的なそばの食べ方である麺の1/3の下の部分だけそばつゆにつける。
という、食べ方にすると蕎麦の香りを楽しめ、そばつゆの塩気が程よくなります。
『そばつゆはたっぷり使いたい!』という人も少なくないので、そのような人は少量の水で調整しながら割れば対応は可能です。
作ったそばつゆの応用
ここで作ったのはもりそば(ざるそば)に用いる辛汁(もり汁)となります。
ですが、水や出汁で薄めて3~5倍ぐらいにするとかけそばに用いる甘汁と変えることが出来ます。
甘味がやや少ないですが市販の麺つゆ同様に料理に使うことも出来ます。
鶏もも肉の照り焼き
材料
鶏もも肉 1枚
そばつゆ 大さじ2
作り方
1.フライパンに皮目から先に弱火で加熱し、脂を少し取り出す。
2.鶏肉をひっくり返し、フタをしたら弱火で15分ほど焼く。
ポイント 鶏皮を先に完璧に焼いてしまうと身が反り返り、バランスが悪くなります。
3.中火にし、皮目に焼き目を軽くつける。
4.そばつゆを入れ、水気が無くなるまで両面にタレをまぶしながら焼く。
5.カットして完成!
濃厚なそばつゆを使うことで、市販の麺つゆでは味わえない鰹出汁の豊かなコクと香りを楽しむことが出来ます。
蕎麦屋の鶏肉料理や親子丼などが美味しいのは、かえしと濃厚な鰹出汁によるものが大きいです。
甘味が控えめなので本味醂か砂糖を好みの分だけ足すと親しみのある味になります。
まとめ
手打ちや自家製麺、乾麺のそばはどれが美味しいなど、蕎麦自体に注目されることはよくありますが、1番味に影響するのは麺つゆです。
しかし、市販の麺つゆは腐りにくいように旨味が十分に入っていないものが多々あります。
なので、そばつゆを手作りする価値は相当高いと個人的には思いますね。
といっても、作るのは少々面倒なので、市販品を手軽に美味しくする方法も別記事にて紹介しているので、良かったら併せて読んでみてください。
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【プロの技】市販のめんつゆを美味しくする方法【牡蠣そば】
・市販のめんつゆを美味しくする方法を記載。
・牡蠣の旨味をめんつゆに移す。
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